【書評】「奴隷のしつけ方」に学ぶ古代ローマ式労務管理法
読んだ次の日から奴隷の態度が変わりました!(40代・貴族) 私にも買える!と自信がつきました。(20代・自作農) 古代ローマ貴族が教える奴隷マネジメント術の決定版がついに文庫化!
これが最近読んだ本「奴隷のしつけ方」の帯の紹介である。
[rakuten no="9784480436627" shop="book" kw="奴隷のしつけ方 (ちくま文庫 ふー53-1) マルクス・シドニウス・ファルクス"]
著者は「マルクス・シドニウス・ファルクス」という古代ローマの貴族である・・・というのはフィクション。
帯の紹介文を読めばわかるように、少々お遊びが入っている。実際の著者は、古代ローマの研究者の人で、様々な文献に現れる奴隷に関する記述を参考に、当時の奴隷がどのように考えられ、扱われていたのかを、古代ローマ人の口から語らせるというスタイルで書かれた本である。
読めば古代ローマに学ぶことも多いと実感させられる。マルクスも文庫化にあたってのあいさつで次のように述べている。
かの国(日本)の奴隷制も長い歴史をもつと聞いているし、わたしの経験から学びたいという日本人が多いのも当然のことだろう。 ローマでは奴隷を石臼につないで粉を挽かせるが、かの国ではなんと机につなぐそうだ。だがそれでは小麦よりもむしろ奴隷の精神が挽かれて摩耗してしまい、仕事の効率もあがらないらしい。だとすればローマから学ぶべきことが大いにあるはずだ。
古代ローマの奴隷とは?
古代ローマ時代には、奴隷の存在が普通でした。「奴隷」というと鎖につないで鞭をつかってこき使うというイメージがありますが、それは近世以降のいわゆる黒人奴隷のイメージ。
むしろ、古代ローマ時代の奴隷はただ単に「自分の運命を自分で決めることができない人」とされ、条件が整えば自由を取り戻し「解放奴隷」になることも可能でした。
つまり、幾分かは人間として扱われているわけです。となると、いかに奴隷を管理するのかが重要になります。いかにきちんと働かせるのか、いわゆる「労務管理」の必要が出てくるのです。
この本で書かれているのは、例えば、
- 奴隷の買い方
- 奴隷の活用法
- 奴隷の罰し方
- なぜ拷問が必要か
などなどの極めて実用的な内容です。ほかにも「奴隷は劣った存在か」という哲学的な問題なども扱った、まさに「奴隷管理のためのバイブル」になっている。
奴隷のマネジメント法
例えば、奴隷の買い方については、こんな感じである。
どこから来たのかでいい奴隷になるかどうか決まるといってもいいほどで、評判のいい部族もあれば、悪い部族もある。たとえば、身の回りの世話をさせる奴隷を探しているなら、若いブリトン人は辞めた方がいい。荒っぽくて行儀が悪いので役に立たない。その逆が若いエジプト人で従者として傍に置くにはもってこいだ。
ほかにも、体に欠陥がないかとか、性格はどうかなどチェックするべきポイントは多い。
陰気に見える奴隷は避けたほうがいいとのこと。奴隷であることがすでに辛いのだから、そのうえ気鬱症でひどく落ち込むとなれば先が思いやられるとのこと。奴隷も快活で健康そうなのが一番なのだ。
なにやら、現代日本の新卒一括採用でも、企業のほうで考えていそうなことだなあと思うと笑ってしまった。
学歴は関係ないと言いながら、そうはいっても聞いたこともない学校の出身者よりは、名の知れた学校出身者のほうが確かだし、陰気な学生はまず落とされる。現代の奴隷も快活で言うことをよく聞くのがいいのだ。
うがった見方をすれば、就職活動というのは「奴隷の見本市」のようなものとも言える。
ほかにも、奴隷のモチベーションを維持するためには、厳しくし過ぎてはいけないと説く。よい働きぶりを見せた奴隷には、少し食事を多めにしてやるとか「ニンジン」をぶら下げるのだ。
ただし、甘やかすのもよくない。奴隷というのは隙あらばサボろうとするのだから、厳しくするところは厳しくしなければならない。いわゆる「信賞必罰」というやつなのだろう。
「奴隷」の管理法は、古代ローマでも現代日本でも理念はさほど変わらないのだ。
会社=主人、社員=奴隷
会社で働くということは、資本家と労働者の間に主人と奴隷の関係が生まれてしまうことを意味している。
会社に殺生与奪権を握られ、どんなブラックなこともやらされてしまう。これを奴隷と言わないというのは、偽善ではないかと思う。
だからこそ、先に例を挙げたように、「奴隷」を「社員」と読み替えても成り立つ部分は大いにあると思う。
しかし、本書を読んでいるとむしろ奴隷のほうの実態に興味がわいてくる。主人たちも、奴隷たちの日常的な反抗には手を焼いていたようで、
「自分、奴隷ですから」と言って、頭の悪いふりをして仕事をさぼる。あるいは、主人の金を使い込み、ばれないように帳簿を書きかえる。ばれそうになれば、逃げる。
これをいかに防ぐかというのが、マネジメント法として解説されているのだが、裏を返せば奴隷はあらゆる手段を使って主人に反抗しようとしていたのである。
現代の「奴隷」たちにも参考にならないだろうか。
自分に不利にならない程度に手を抜いたり、仕事をやんわりと他人に押し付けたり、仕事ができないことを暗に示して重い仕事から外してもらったり・・・していないだろうか。
そして、最終手段が「逃亡」である。これが主人にとって一番痛い。奴隷とは「投資」なのだ。奴隷を買うにもコストがかかるし、教育して仕事も覚えさせるにもコストがかかる。そうして、コストをかけて育てた奴隷が逃げてしまうのが一番痛い損失なのだ。
そう、「早期退職」ほど主人に復讐するに最適な方法はないのだ。
現代を生きる奴隷として、しっかりと資金を貯めこんで「自由」を買い戻し、「解放奴隷」になろう。そして、「自由民」として新しい人生をスタートさせたいと改めて思った次第である。
https://tiberius-caesar.com/kaihou-dorei-semiretired
[rakuten no="9784480436627" shop="book" kw="奴隷のしつけ方 (ちくま文庫 ふー53-1) マルクス・シドニウス・ファルクス"]