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【書評】「私の嫌いな10の人々」を読むとますます人間が嫌いになる

私がよく読む中島義道氏の著書「私の嫌いな10の人々」をご紹介したいと思います。

以前にご紹介した「私の嫌いな10の言葉」の姉妹本とも言えるものです。

https://tiberius-caesar.com/watashi-kirai-10kotoba-syohyo

前著でも鋭い舌鋒を飛ばしていた中島氏ですが、この本でもそれは変わりません。世の人間社会の欺瞞、表層を見事にあぶりだすといったところ。

氏の著書を読むと、普段モヤモヤと感じていることが見事に「言語化」されているので、「そうだそうだ」という感じです。氏の言葉にうなずける人ほど、氏同様に相当”ひねくれている”のではないでしょうか。

嫌いな「10の人々」

この本では、中島氏が嫌いな10の種類の人が紹介されています。

  1. 笑顔の絶えない人
  2. 常に感謝の気持ちを忘れない人
  3. みんなの喜ぶ顔が見たい人
  4. いつも前向きに生きている人
  5. 自分の仕事に「誇り」を持っている人
  6. 「けじめ」を大切にする人
  7. 喧嘩が起こるとすぐ止めようとする人
  8. 物事をはっきり言わない人
  9. 「おれ、バカだから」という人
  10. 「我が人生に悔いはない」と思っている人

いかがです。どれも、世間的には「いい人」「優等生」「分別のある大人」・・・そんな風に見られる人ではないでしょうか。

なぜ、中島氏がこれらの”すばらしい”人が、嫌いなのか。それは、彼らが世間のマジョリティの価値観に安住し、そしてそれに当てはまらないマイノリティを迫害しているから。

それも、自分はいいことをしていると思っているのですから、ますますたちが悪い。自己反省というものがまったくないのです。

みんなの喜ぶ笑顔が見たい人

氏の挙げた10の嫌いな人々のうち、「みんなの笑顔が見たい人」が良く分かるので引用してみましょう。

彼らは自分の望みがとても謙虚なものと思っている、という根本的錯覚に陥っておりながら、それに気づいていない。 「みんなの喜ぶ顔が見たい」とは、なんと尊大な願望でしょうか!その願望は、結局は自分のまわりの環境を自分の好ましいように整えたいからであって、エゴイズムなのです。

まあ、中島氏もそして私もエゴイストですが、そのことを自覚している点でまだマシだと言えるでしょう。

彼らが嫌いなのは、「エゴ」であることを自覚していないばかりか、自分はいいことをしていると思いこんでいるからなのです。なんたる傲慢!そしてなんと鈍感なことか!

中島氏は、そのような人たちを自己利益をしたたかに求める功利主義者と指摘しています。

いかにも自分を押し殺し、どこまでも他人を、集団を立てるふりをしていますが、そうすることが評判はじめざくざくと自己利益を呼ぶことを知っているからです。

それが悪いとは言いません。誰でも多かれ少なかれそういうことはあります。でも、そこにまったく自己反省のカケラもない人たちが嫌いなのです。

また、みんなの喜ぶ顔の”みんな”とは、マジョリティのことです。決して、マイノリティは含まれていない。”まとも”な人なら喜ぶ”べき”ことをしているのです。それが、うれしくない人もいるかもしれないのに!

ますます人間が嫌いになる

中島氏の挙げる10の人々はそういう人たちなのです。つまり、筋金入りのエゴイストでありながら、それを自覚していない人。そして、社会のマジョリティの価値観に安住して、マイノリティを苦しめている(そして、そのことに全くの無自覚!)

笑顔の絶えない人、常に感謝の気持ちを忘れない、いつも前向きに生きている人・・・他人のことを思いやっているように見えて、その実、周りを自分の居心地のいいように変えようとしている単なるエゴイストなのです。それを、「きれいごと」として覆い隠しているのです。

私はもともと人間嫌い(だからこそ、セミリタイアを目指しいる)ですが、この本を読んでいるとますます人間が嫌いになってきます。

https://tiberius-caesar.com/ningengirai-semiritaia

表層の”きれいごと”の裏には、ウソ、ウソ、ウソがゴキブリのように這いまわっている。やはり私は世間で生きていくには向いていないようです。

最後に。「我が人生に悔いはないと思っている人」について、中島氏は、

そう思いたければ、そう思いなさい!そう思って、さっさと死んでいくがいい!

と言っています。確かに、何十年と生きてきて悔いがないということはないでしょう。それを、あたかも「いい人生だった」と思いこみたいという思いがすべてを見えなくしている。

できるだけ悔いなく生きたいとは思いますが、悔いの残ることも含めて人生だと思います。私は、そう生きたのであり、そうしか生きられなかったのであり、それがすべてなのですから。

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