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セミリタイアという会社からの「脱獄」を成功させるために・・・

私が好きな作家、塩野七生氏の著書に「サイレント・マイノリティ」というものがあります。

[rakuten no="9784101181073" shop="book" kw="サイレント・マイノリティ改版 (新潮文庫塩野七生"]

以下は、本書の紹介文から。

みずからの置かれた状況を冷静に把握し、果たすべき役割を完璧に遂行する。しかも皮相で浅はかな価値観にとらわれることなく、すべてを醒めた眼で、相対的に見ることができる人間ーそれが行動的ペシミスト。 声なき少数派である彼らの代表として、大声でまかり通っている「多数派」の「正義」を排し、その真髄と美学を、イタリア・フィレンツェで綴ったメッセージが本書である。

セミリタイアをするということ、あるいはそれを目指すということは、「行動的ペシミスト」そのものであるように思います。

そのことがよく分かる物語が本書にありました。それは、ある男の「脱獄記」。「夢も恐れもない」行動的ペシミストがいかなる人間なのかがよく分かります。そして、それは紛れもなくセミリタイアを志す人の参考になることでしょう。

なぜなら、セミリタイアとは、会社からの「脱獄」にほかならないのですから。

ある「脱獄記」

物語は17世紀も末のローマから始まります。主人公はジュセッペ・ピニャータという名の、枢機卿の秘書をしていた40代の男。

生活に困らないだけの蓄えを得て秘書の職はすでに辞し、ある伯爵のサロンに出入りするのが唯一の「仕事」となっていた。何もなければ、このまま穏やかな人生を送ったはず。

ところが、ある日ピニャータは突然逮捕されます。どうやら、出入りしていた伯爵にある嫌疑がかかりそれに連座して逮捕されたらしい。連行されたのは、異端裁判所。

そして、取り調べと拷問が始まり、ピニャータは牢獄に入れられます。結果は「有罪」。

彼も絶望しなかったといばウソになるでしょう。しかし、そこで状況を冷静に把握して醒めた目で行動を始めるのです。

脱獄に向けて・・・

牢獄に入れられていても、広場で定期的行われるミサには参加が許されていました。彼は、ミサには常に駆け足で行くことを心がけました。足腰が弱るのを防ぐためであることは言うまでもありません。そして、ついでに落ちていた1本のくぎを拾うことも忘れませんでした。

また、机にしっくいのかけらでチェンバロの鍵盤を書き、知っている限りの曲を演奏します。頭が衰えるのを防ぐためです。牢獄では読書も許されていませんでした。

そして、彼は牢を巡回する僧(キリスト教の異端裁判所なのです)に、紙と墨を所望します。それに、見事な聖母子像を描いて僧を感心させます。感心させた僧から次にわら細工をするための、わら、はさみ、のり、絵の具をもらうことは簡単でした。

彼は、それを使ってまたしても見事な作品を作り僧を感心させます。そのあとも、彼はわら細工を作り続けました。はさみなどの道具を回収されないためです。

さらに、食事のときに供されるサラダ用の酢をひそかに壺に貯めるようにしていました。これはのちほど役に立ちます。

彼の脱獄計画は、こうです。天井に穴をあけて上の階に出れば、そこの窓から脱出するというもの。上階の構造は、巡回する僧からそれとなく聞き出して確認済みです。

上の階に住むキリスト教の高僧は、月、水、木曜日の夜は不在がちであることが分かりました。しかし、彼は念には念を入れて統計を取りました。その結果、水曜日にローマ市内で開かれる会議に出席するときは、帰りが夜半遅くになることが分かりました。

ついに脱獄へ

入念な準備のうえ、作業を開始します。

くぎやはさみ、それに腰を痛めたと言って手に入れたコルセットから抜いた鉄棒などを使って、天井のしっくい、そしてレンガを削っていきます。前の日に「酢」を霧吹きしておけば、しっくいがやわらかくなって削りやすくなります。

削ったレンガはトイレに行く時に処分しました。

作業が終わると、穴に画用紙を貼り付け、白色の絵の具で四辺をぼかせば分からなくなりました。

作業を開始してから1年あまり。ようやく人1人が通り抜けられるくらいの穴が開きました。後は、最後のレンガの1層を取り除くだけ。

水曜日の夜についに脱獄に成功、そのまま彼はヴェネツィアへ亡命したのです。

ヴェネツィア共和国がローマに放っていたスパイからの報告書に次のような一文があったとのこと。

昨夜、例のガブリエレ一味とされて獄中にあったジュセッペ・ピニャータが、異端裁判所の牢獄からの脱出に成功し、今朝のローマは、この話で持ち切りです。44歳になるこの男は、ことのほか模範囚であったとか・・・

セミリタイア計画という脱獄計画

セミリタイア計画もかくあるべきと思いました。状況を把握し、目的のために何が必要なのか、それを醒めた眼で考えるのです。

そして、周囲の目を欺きながら(ピニャータは模範囚と思われていた!)、その裏で冷徹に計画を進めていたのです。

私もコツコツと、「天井」を削り続けたいと思います。その向こうにある「自由」を得ることだけを考えながら。

私がセミリタイアを達成したあとは、こんな話が社内であるでしょうか。

昨日、○○課のティベリウス氏が突如退職した。○○課、またティベリウス氏の知り合いの間では、この話で持ち切りである。彼は、ことのほか模範的な社員であったとかで・・・

本書では、ピニャータのほかにも「夢もなく、恐れもなく」生きる行動的ペシミストが紹介されています・・・

[rakuten no="9784101181073" shop="book" kw="サイレント・マイノリティ改版 (新潮文庫塩野七生"]